【異形団 宗教】短編
またあの夢。
彼はよく夢に現れる...微笑みながら、手を差し出してくる。手を取ったらどうなるのだろうか...なんて、ぼんやりしていた。視界がうっすらと映えてくる。腕を上に伸ばすと何かに当たった。何だろう...紙と、ペン?両方とも掴んで視界に入れた。
「こんなところに紙なんて置い...た.....か.......な。」
言い終わる前に紙に書いてある字を読んで声が小さくなった。と、同時に私は勢いよく起き上がった。
紙には『早く起きろ』と書かれてあった。
・・・嘘かな、嘘だよね?そうじゃないと....うん。
私、寝坊いたしました...
ベッドから降りようとしたら支えてた手が布団の布に滑りずり落ちた。ドンッ!!とした音がした...体重増えた?前はこんな音しなかった....ハズ。もう少し軽かったような。ちなみに、とっても痛いです...。
「いったた...あ。早く着替えなきゃ!」
急いで寝間着を脱ぐ。...ボタンが多い。普段は気にしてもいなかったけど、急いでいるとなるととても邪魔...。ボタンを外し終わりシスター服を身に纏う。よし、フードもした。
鏡の前で服に不備がないか確認する。くるくると回っていると時計の鐘が鳴った。
「あ、礼拝の時間!」
逃げ出すように自室から出た。走ったら怒られるから早歩きで向かう。
ガチャッ
そーっと扉から覗いた。が、誰一人いなかった。
「あれ?誰もいない...」
礼拝堂の中に入って辺りを見渡したが誰もいない。
「まだお前の頭は寝ぼけているのか」
この声は...。声の方に振り返ると、その人は祭壇を台にして足を組んでいる。いつも着ている青色のロングコートは近くの椅子に掛けてあった。その青色はどこかの国では呉須色と言うらしい。(この前、本を読んでいたら見つけた)
「きょ...教皇様...礼拝のお時間では...?」
「今を何時だと思っている」
「えっと...」
そう言えば起きてから一度も時計を見てなかった。でも、確実に言えることが一つ。起きる時間より遅いということ!...はい、反省シテマス。教皇様が懐から懐中時計を取り出し此方に向けた。ん?あれ?
「12時13...分。」
遅いと言うレベルじゃなかった。顔面蒼白とはこのこと。もうお昼...だね...熟睡し過ぎだろ私!と思いながら落ち込んでいた。私は悲しい...
「一度、お前の部屋に行ったが全く起きなかったな」
「・・・部屋に来られたのですか!?」
どうしよう...全く気付かなかった。...じゃあ、あれは...
「あの置き手紙は教皇様の...ですか?」
枕元に置いてありましたけど、と言ってみた。
「そんなものは知らん」
帽子を深く被り直す教皇様。でもね、教皇様...あの字は貴方の字でしたよ。なんて言ったら照れてすぐ消えるから黙っておこうかな。
「・・・今日は隣街の教会の奴らが来る。」
「珍しいですね...プライドが高いあの教会がこちらに来るなんて。」
「昨日、視察に行ったが...」
教皇様のご機嫌が斜めになった...まぁ、察しはついた...。
「朝から酒に溺れ、信者には金を巻き上げる...仮にも聖職者としてあるまじき姿だ...[これだから人間は嫌いだ]」
吐き捨てるように言う...段々と不機嫌になっていく...。教皇様は物に当たったりする人ではないが...
パキッ
教会の窓ガラスに亀裂が入った。この通り、無意識に物を壊してしまう...。後で直してくれるので問題はないが、威圧感で潰されそうになる...。うーん、どうしよう。ガタガタと物が震え始めた...どうしよう(二回目)
「あ、厨房にクッキーがありますよ。『パパ』」
ピタリと止まった。わざとでは無かったけど、結果オーライ。・・・昔の癖が出てしまった...自分で言っておいてちょっと恥ずかしくなってきた。タスケテ。教皇様は帽子で顔が見えないけど機嫌は治してくれたかな。暫く沈黙が続いた。
「珈琲を用意しろ、お前の作る菓子は甘いからな。」
気のせいかもそれないけど、微笑んでくれたのかな?それがとても嬉しかった。
「分かりました。用意ができましたらキッチンに置いておきますね」
「何を言っている、お前が入れろ。私は書類を整理せねばならん...それにお前、以外がやった珈琲は飲まない。なんだその顔は、鳩が猟銃に撃たれた顔をしてるな」
「パパ、それ死んでる...ゲフンゲフン。と、取り敢えず私は珈琲の準備をしてきますね。では失礼します。」
逃げるように私は礼拝堂から出た。1発喰らわせたかと思えば喰らわされた気がする...あー!なんか...悔しい。
・・・一緒にお茶を飲むのは何年ぶりかな。昔も忙しかったけど今はもっと忙しいからなんだか嬉しい。よし、褒められるくらいに美味しい珈琲でも煎れますか!