【異形団】殺戮男の夜
夜が自分を囲んでいる。自分は館の屋根の上で酒を飲んでいた。館の中はまだ落ち着かない。団員の皆を信用していないわけではない。『暖かい』と言うものに馴れていないだけだ。それにお酒は何かを思いだしそうなので好きだ。
・・・自分は記憶が削れている。一番古い記憶で、この頬から首の傷。軽く傷を触る、何をしても消えることはない。
ふと、思う。何故、団長さんは自分をここ(異形団)に入れてくれたのだろうか。不思議だ。自分自身誰か分からないのに。
そんな事を思いながら自分は酒を飲んだ。液体が喉を通り染みていく。『僕は』この感覚を何処から知ったのだろうか?本に書いてあってもこの行動と感覚は分からないのはずだ。また疑問が増えてしまった...。急いでポケットから手帳を取り出しメモをする。分からないことがあるとメモを取るようにしている、後から役に立つかも知れないからだ。
パラパラと頁を遡っていく。月明かりが夜空を照らす刻、紙の音だけが聞こえた。雲が差し掛かり辺りが暗くなる。自分は、とある頁に目が止まった。
【□□□・□□□□□□】
ただそれだけしか書いていなかった。刻が止まり、音も聞こえなくなった気がした。それと同時に頭の中が曇っていく。何だろうか、この感覚は...。何かを忘れているような、それを思い出したくないような...。記憶の欠片を必死に探ってる。もう少しで分かりそうなのに分からない。
「こんなところで何をしている」
記憶を探すのに周辺を気にしていなかった。振り向くと『或さん』が屋根の端に立っていた。急いで手帳をしまった。
「お酒を...飲んで...いま...した。」
『或さん』の目がほんの少し見開いた。何か変なことを言ったのだろうか?すると『或さん』は早歩きで此方に向かってきた。自分の座っているすぐ近くに腰を下ろし
「俺も飲もうか。」
と言った。何処からか、ウイスキーグラスを取り出し自分に差し出してきた。自分は少し『或さん』に近づき持っていたお酒を注いだ。注ぎ終わるとすぐに『或さん』は口に入れた。飲み終わると穏やかな雰囲気になった。お酒が好き、と言うことはよく分かった。後で日記に書いておこう。そう思い自分のグラスにお酒を注ぎ喉に通した。雲が月を隠そうとした時、『或さん』は此方を向き言った。
「ブリタルは(館の)中に入らないのか」
「・・・時々...お邪魔させて...貰ってま…す」
「そうか、お前が他の奴らと会話してるところを見たことが無くてな。...警戒してるのか?」
「・・・。」
グラスに目を落とした。自分は何も言えなかった。団員さん達を疑っていると言ったら嘘になる。しかしどうしても『癖』で警戒してしまい逃げてしまう。
「すみません...。『昔の癖』で...警戒し...て...。」
最後まで『僕は』言葉を言えなかった。違う、そんな事はどうでもいい。
何を言っているんだ『僕は』
『昔の癖』?いつ何処で『それ』を知った?何故そんな事を言った?
「どうした、顔色が悪いな。体調不良か?」
「だ...大丈夫で...す....っ!!」
頭に激痛が走った。ガラスの破片が脳内に充満しているようだ。取り敢えず、『或さん』から離れよう。迷惑をかけたくない。
「す...み...ま...せん。」