【星野光の術師達】だから僕は
刺さるように日光が肌に当たる。作業服を着ているとはいえ暑いものはどうしようもない。それに存外土いじりも悪くない。シャベルを持ち直そうとしたら
「エテ兄ー!!これってここでいいよなぁ!?」
彼の声が割って入り込んできた。元気なことはいいと思う。・・・まぁ。彼の姿は見えないのだけど。
彼を探すとしよう。軍手と手袋を外した。右手を地面につけて
「ベオーバハター(観察者)」
これは相手が何処に何をしているのか、が分かる。彼は...そこか。彼は種の入った袋を持ちながらシャベルに、もたれ掛かっている。
『そうだね。一つ植えたら10センチずらしてね。』
「んー。了解だぜ!」
そう言うと彼は作業に戻った。僕も早く済ましてしまおうかな。
言い忘れていたけど、ここは【第2庭園】。一応学園の管轄に入っている。学長が(条件付きで)使って良いと言ったのでここを使わせてもらっている...育てているのは植物だけではないよ。
空が暮れ始めた。そろそろ彼を呼ぼうと思ったがその必要はなかったらしい。ガサガサと音が近づいて来た。数秒すると花を折らないように優しく掻き分けながらこっちに来る彼の顔が見えた。
「あ、エテ兄。渡された種籾(タネモミ)植えといたぜ!」
身体一面に土がついてるけど...どうやったらそのようになるのか...軽く濡らしたタオルで彼の頭を拭いていく。
「ありがとう。またお願いできるかな?」
「おう!俺も花植えるの楽しいからいつでも呼んでくれよな!」
そう言って彼は笑顔を此方に向けた。僕には眩しすぎる光だと思う。・・・もうこんなにも成長したのか。だから『時』が過ぎるのは恐ろしいんだ...。
「エテ兄、どうしたんだ?」
ぼんやりしていたからか、彼が声をかけてきた。
「何でもないよ。帰ろうか、夕食を食べないとね」
「・・・そうだな。あー。俺も腹減ったな。」
「アルはよく食べるね」
「エテ兄がそれ言う?ま、たくさん食べ--早くエテ兄...---な----!」
視界が一瞬、歪んで見えた。ノイズも聞こえた...気のせいだろうか
「僕みたいに...?どんな感じかな」
「エテ兄は...」
パキッ
彼が色を無くして銅像のように止まった。冷や汗が僕の頬を撫でる。
まさか...いや、そんなはずは...ここ(この時空)まで来れないはずだ...。しかしこんなことをするのは『あの人』しかいない。
「やぁ、ミラージュ。会えて嬉しいですよ」
一番聞きたくない声が後ろから聞こえた。
後ろを振り向くと『あの人』が微笑みながら此方を見ていた。...間合いを取ろう。『あの人』の近くにいると危険だ。
杖を出す前に右腕に痛みが走った。
「・・・っ!!」
痛覚がおかしくなるほど痛い。痛みに耐えかねて左手で抑えようとしたら体が動かないことに気づいた。
右腕に気を取られていると『あの人』が目の前に来ていた。
「そう睨まないで下さい。こうでもしないと貴方は逃げるでしょう?それに...その顔を素敵ですよ。流石、『あの方』の最高作品ですね...。」
悪寒とはこう言うことなのだろう。蛇が全身に巻き付いてる感覚だ。
「僕は...もう...『あの方』の作品では...ない...から...放っておいてく...れ。僕には....居場所が...ある...かはっ....!」
言い終わる前に首を捕まれて、そのままバランスを崩して後ろに倒れる。
僕の首を絞めている主は、先程の微笑みなど比にならないくらいの歪んだ笑みを浮かべていた。
「居場所...?私のコレクションにそんなモノは必要ないですね...実に目障りです。...貴方は私の檻の中に居れば良いのですよ」
そう言って、僕の首を更に絞めていく。
「...私(鳥籠)、以外に居場所があるならば...その原因となるものを壊すしかありませんね」
また冷や汗が流れた。何であの子達(家族)が巻き込まれなくてはならないのだろうか。それだけは阻止しなければ...。運悪く、目の前にはアルがいる。アルだけでも学園に戻そう。学園に入れば少しは安全だ。
「...っ!」
痛みで支配されている右腕から杖を出した。何かしらの術で体は動かなくなっていたが、全ての魔力を腕に回した。鈍く動いたがそれでも良い。
「アジール!!(安全地帯)」
アルが陽炎のように消える。此所が『あの人』の空間だろうと関係ない。...あの時、触れて良かったと思う。触れなければこの術は発動出来なかった。
「はははっ。」
感情が入ってない笑い声が聞こえる。『あの人』は、ゆっくりと僕の首から手を離した。首を解放されて息を深く吸い込む。『あの人』は、僕の胸ぐらを掴み顔を引き寄せた。
「『一時的なモノ(家族)』がそんなに恋しいですか...愚かであり素晴らしい。結末は同じだと言うのに...
しかし...貴方から私の方へ来てくれるとは、とても嬉しいことですね。『あの方』も貴方の帰還を喜ばれますよ」
張り付いた微笑みはいつ見ても恐ろしい。何を考えているか分からない。
「・・・。」
これで良い、これで良かった。これが一番の最善策だ。あの子達にはもう何も関係ない。
僕は沈む意識の中で最後に見えたのは眩しい光だった。